白い女、または『白き飛沫の姉妹』

彼女たちについての概要はこちら作中では十人姉妹であると語られている。

長女『霧のシルウェスティナ』

 白い女、または『白き飛沫の姉妹』の長女とされ、失われた無名神『慈悲』の容姿をかなり受け継いでいると伝わる。無尽蔵の生命の力は霧のように彼女の周囲に溢れ、彼女が降り立っただけで死に絶えた世界は容易に再生すると伝えられている。その表情は『慈悲』の神格を映してかいつも柔和に微笑み穏やかとされる。しかし彼女の目だけは真なる闇で、全ての生命はいつかは死に絶える真理と、その彼方の『有識の闇』を映しているとされ、彼女はその闇の目を自らの生命力にあふれた霧でぼやかして柔らかな見た目にしていると伝わる。

 『彼らが恐れるのは、あなただけ……』のエピソード等、比較的大きな出来事に関わって登場するが、いかなる状態でも落ち着いた微笑みを浮かべており、不思議な安心感をもたらす。

 また、本来は世界の不吉な命運に大きく関わっているらしいダークスレイヤーに何らかの諧謔(※おかしみ)を感じている事が顕著な様子で、しばしば口元を隠して笑っている事がある。彼女の容姿の元となった『慈悲』については本編中で、

──彼女は豊満な容姿に無口な女神でいつも微笑を浮かべ、言葉ではなく行動で何かを示し、彼女のいた世界は大いに栄えたと伝わっている。

 というテキストがある。

 滅びゆく無限世界イスターナルとダークスレイヤーの戦いにそれでも微笑みを絶やさない彼女は、はたして何を見ているのだろうか?

二女『白きアマルシア』

 『慈悲』のかつて持っていた憧れを秘め、少女のような真面目さを持った『白い女』の二女。その眼はかつて『慈悲』が何かに持っていた『黄金のように貴い何か』が少し褪せたような淡い黄色で、彼女はそんな何かから目を背けているような、少女のような真面目さとひたむきさを持つ。

 ミクタラやウル・インテスなどの『界央セトラの地』に破壊された地をひたすら歩いて生命を蘇らせており、約束に正確で真面目だが、三女のミルフィルの自由さにはしばしば苦言を呈したり怒っていたりする。また、自分たちには無いはずの女性性をミルフィルが有している事に対して絶句していたりと、何かと三女に振り回されがち。

 あまり話さないが『界央の地』に対しては否定的で、『蒼城三十柱』の女神たちとは親交があり、蒼い城での過去の出来事を聞き取っては書き留めており、しばしばそれの続きをミルフィルにねだられていたりする。

 『白い女』の中では言葉に触れる機会が最も多いが、実は生命の概念からしたら言葉には有限性や問題点が数多い事に気付いており、終わる事のない苦悩と複雑な気持ちを抱えている。

三女『気の強いミルフィル』

 二本の長く編んだ髪と銀の瞳、銀糸をふんだんに用いた衣装が特徴的なミルフィルは、白い女の中で最も気が強く自由であるとされている。『白い女と嵐の古竜』では危機を脱した嵐の古竜ダカルダースに口のきき方に気を付けるべきと言っていたり、第三章の後日譚『月を呼ぶ』では大幅に遅刻して二女のアマルシアにどうしてそんなに俗っぽいのかとまで言われたり、しばしば高圧的で時間にルーズで位の高さを感じさせない面がある。

 伝承によれば『慈悲』は黄金も宝石も身に着けず、地味な銀を好んだという言い伝えがあり、ミルフィルの趣味や銀の瞳はそんな『慈悲』の気持ちが反映しているのかもしれない。

 無限世界イスターナルでは彼女が姉妹たちと共に荒廃したミクタラやウル・インテスの自然を復活させている描写が為されており、彼女と末妹のセルフィナが髪に飾っている藍色の花は、自然を取り戻したミクタラに帰還した民の少女が感謝してこの二人に贈ったもので、とても大切な宝物らしい。

 生命の力に溢れている彼女は様々な生物の相を自由な大きさで顕現でき、この為怒らせると甚大な被害が出るとされ、苦慮した界央の地は彼女にいかなる地も駆ける白い有角の馬を与えて自由にさせていたと伝わっている。

 『白い女』の中では明確に女性性を持っているほうで、男性としてのダークスレイヤーに興味がある事を明言してもいる。

末妹『セルフィナ』

 ウロンダリア編においては序章で『覇王の墓所』に永く幽閉されており、覇王の墓所で施されていた彼女の枷が破壊されてからは第四章時点でもずっと眠ったまま。しかし、『セルフィナの夢』や『白い女と嵐の古竜』のエピソードによれば、姉妹の中では過去にダークスレイヤーと最も長くともに旅をしたらしく、彼の戦いをよく見ていて戦いに関する知識は豊富であるらしい。

 『白い女』としての生命の力は彼女はそれほど強くはないものの、禁忌に近い『魂を再生させる力』を持っており、古竜ダカルダースでさえも『あってはならない力』と言っている。また姉妹の中では最も俗世に縁のある運命を持っているらしく、それは多くの場合は幽閉されたり閉じ込められている時間になってしまう模様。

 彼女はとても物静かで悲し気に澄んだ藍色の目をしているが、この目の色は『慈悲』の涙の色であるとされ、それ故に彼女は慈悲の秘められた思いと矛盾をそのまま抱えており、だから無口なのだとされている。

 彼女の功績は荒廃したミクタラの地で失われた世界樹の精霊イルシルヤの魂を再生させた事など。しかし、この力を使った彼女は永い眠りに就いてしまうため『白い女と嵐の古竜』のエピソードでも仕事を終えて世界樹の梢で眠りに就いている様子が描かれている。

 また、ミクタラで眠りに就いている時はダークスレイヤーの黒炎のマントに身を包んでおり、その時点では二着か三着しかないそれの所有者でもあったらしい。ダークスレイヤーの黒炎は界央の地においては認識不可の概念であり、それが彼女の姿を隠してしまう効果が期待できたためと思われる。

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