第三十一話 混沌との接触

第三十一話 混沌カオスとの接触

 次元のはざまの暗黒の空間を飛ぶように移動していたルインは、やがてその移動の終わりに気づいた。張り詰めていた鎖がいつの間にか、異変のおきた釣り糸のように緩んでいる。

「バゼリナ!」

 ルインは遠い遠い昔、何かと気遣ってくれた奥ゆかしい女神の名を呼んだ。

「こちらです。すぐ近くにいます! 何か檻のようなものに囚われて……!」

 ここは果てしない暗黒の空間だった。しかしルインは声のする方、きらきらと淡く光る粉のように神気が立ち上る場所を見つけてそこに向かう。しだいに空間の暗黒は薄れ、灰色めいた薄明かりとなり、灰とも砂ともつかない地面に頑丈な支柱で組まれた大きな鳥かごのような檻が置かれ、その中に淡く光る女神バゼリナの姿が見えていた。

 光源の無い灰色の世界の中で、その女神にだけ鮮やかな色彩が存在している。

──運命の裁縫者さいほうしゃにして機織りの女神、『綾織りのバゼリナ』。

「来てくださったのですね、黒いお方。ただ、何かおかしいです。この領域はあなたに対しての敵意があり罠そのものなのに、同質の力を持つ何者かがそれを抑え込んでいます」

「ああ、わかる。この奇妙な感じ……!」

──戦いなどいつでもできる。まずは話をしようではないか、ダークスレイヤー。

 声とともに、突如として異形の花々と木々が生い茂り、それらは人の感性と必ずしも相いれない底知れぬ狂気を漂わせつつも、なお美しい造形と色彩に満ちた、混沌カオスの庭園の様相を成した。

 急に現れた混沌の美しい花園の中、やや盛り上がった場所があり、ねじれてなお美しくゆがんだ木が赤や紫の大きな花を咲かせている。その花びらが降り注ぎ続ける下に、緑の蔦が蛇のように絡んで玉座のような椅子の形となり、高貴な女の姿をしたものが座して現れた。

 暗めの美しい花びらの舞う中、小さな花の咲くいばらかんむりを頂いたその女は、暗く様々な色に変色する髪と、燃えるようなオレンジ色の瞳をしており、重い色でまとめられた衣服は聖女のように長いスカートながら、上半身は淫靡いんびなほどに魅力の溢れる身体の線が服をはじいて溢れそうなほどに強調されていた。

 ルインはそれが、この存在の自分への意思表示だと感じ取っていた。女の姿をした存在は、凄みと慈愛が圧倒的に漂う笑みを浮かべ、肉感的な美しい唇を開く。

「ダークスレイヤーと呼ばれ、今や界央セトラの勢力さえ恐れるという闇の存在よ、対面の運命を嬉しく思うぞ。私はヴァラリス。多くの世界では『邪悪な混沌の花の神』などと呼ばれておる。しかしこれは私の一面でしかないのだが、広く語られる呼び名を名乗った方が良かろう?」

 しかし、ここで空間が地震のように大きく揺れ、何者かの声が響く。

──この密会には不正がある。我らが王の概念を否定しかねぬものだ。看過できぬ!

 この声にヴァラリスは苛立たし気に立ち上がると、空間に濃いオレンジ色の落雷が無数に降り注いだ。

「黙れシゾルガ! 我ら『混沌カオス』に秩序も約定も無い。眷属けんぞくに過ぎぬ貴様が私の邪魔をするとは僭越せんえつに過ぎるぞ! 私の機嫌を損ねるなら、今すぐこの檻を破壊しても構わぬが?」

──……!

 何者かの不本意な沈黙の気配が漂った。

「今のは?」

「失礼した。この領域はシゾルガという混沌の眷属そのものだ。あの女神はその者に囚われておる。私はいささか不正に見える手段でここに来て、不正に見える取引をしているゆえ、とがめられたというわけだ。……しかし愚かな話だ。我々は『混沌』であるゆえ不正などという概念は無かろうに」

 ヴァラリスは威厳に満ちた笑みを浮かべてルインに笑ってみせる。その様子は高貴な美しい女でしかなく、敵意も邪悪も感じられなかった。

「で、話とは?」

「良い質問だ。……幸い、私はこのように力と魅力にあふれる女の姿をしており、そなたは力溢れる良き男。……つまり、単なる会話は無粋であろう?」

 ヴァラリスは言いながらルインに歩み寄ると、その首にしなやかな腕を回した。

「えっ、何を⁉」

 ルインではなく、バゼリナが驚きの声をあげる。ヴァラリスはそんな女神を一顧だにせず、微笑しつつもルインの唇に薄くはない唇を重ねた。

 濃厚な花の香りが何種類も緻密に計算されたように混ざり合った薫香に、おそらくヴァラリス自身の女の匂いがルインの感覚を直撃する。しかし、ルインの脳裏にそびえる暗黒の柱のような何かは、それを淫靡いんびに受け止めて混ざり合う事はせず、ただ美しく漂わせるのみにしていた。次第に、漂っていた香りは闇の領域に咲く秘められた複雑な色彩の花のイメージとなった。

 やがて、ヴァラリスはそっと離れる。

「思った通りだ。そなたは私の魅力にも囚われない。私を美しいままに自由にできる存在か。ダークスレイヤーよ、私の話は終わりだ。その女神を救い、『間はざま投錨とうびょうの地』ことウロンダリアに帰れば、我らが王神の揮った剣によって時の破壊されたあの地なら、今後私と会談する時は自然に訪れるであろう。取引は既に始まっている。……頼んだぞ?」

「……」

 ルインは何も答えなかったが、ヴァラリスは愛に満ちた笑顔を浮かべて花びらの舞う霞と化して消え、再び灰色の世界に戻った。

(私は何を見せられているのでしょうか……)

 思えばいつも誰かがこの男に抱き着いているところばかり見てきたバゼリナは、二重の意味でため息をついた。

 しかし、ここで空間が激しく揺れ、怒りに満ちた気配と声が響いた。

──このような不正な取引、認めるわけにはいかぬ! 我らが王たる神の力により、貴様もまた永劫、我ら『混沌』の一部となる定めなのだ!

 灰色だった世界は、嫌らしい燃えるような真鍮色しんちゅういろに満ちた。鳥かごのような頑丈な檻に入れられたバゼリナと、彼女を救うべく立つルインのいるこの領域は、何者かの体内のような、脈動する真鍮色の金属の臓物のうごめく景色に囲まれている。

──我は混沌の眷属シゾルガなり! 我が領域の『混沌カオス』は、お前たちを融かし、取り込み、内包し、いずれお前たちに取って代わる!

 臓物の壁から濁った真珠色の液体があふれ出し、急速に溜まり始める。

「黒い方、この液体は形を変えた混沌です。私たちを融かして混沌そのものにしてしまうつもりでしょう! しかし、私もまた概念を持ちます。そうすぐには侵蝕しんしょくされません」

「長居は不要! すぐにケリをつける!」

 この時、壁らしき部分に張り付いていた、腸や血管のような管が音もなく剥がれると、末端は鋭い牙の並ぶ口と化して奇声を上げつつルインに迫ってきた。

怨嗟えんさよ! 鎖と化して全て断て!」

 ルインの周囲を黒炎の球が包み、それは鎖の球となると、鋸刃のこばのついた無数の鎖が高速で流れつつ放たれた。ダークスレイヤーの鎖鋸くさりのこが牙の生えた目の無い蛇のような無数の管をバラバラに切り裂き、真鍮の管と化した残骸がやかましく降り注ぐ。

「バゼリナ、今開放する!」

 ルインは円状にした鎖鋸をバゼリナの檻に当てたが、湿った異音が響くのみで檻には傷一つつかない。

──混沌カオスにして形あるものに破壊の概念は通じぬ! 混沌は混沌によってのみ制される故に!

「どういう事だ?」

権能けんのうによって生み出された形あるものは破壊できますが、混沌そのものが形を成したものに通常の破壊の概念は通じないという事です!」

 ルインの疑問に対して、バゼリナが答えるが、その答えは簡潔にして分かりづらい物だった。

「……なるほど、理解した!」

「ええっ⁉ 理解が早すぎます。さすが、戦いつつも悟りを開いたとされる……」

 ルインの返事に驚いたバゼリナだが、続くルインの言葉は理解どころの話では無かった。

「それ以上の力で倒せばよいという事だな!」

「結果は合いそうですが違います!」

 これは全く理解ではない乱暴な解釈だったが、到達する結果はおそらく同じであるため、バゼリナは何か釈然としないものを感じた。

 ルインは無数に襲い来る蛇のような腸や血管を鎖鋸で断ち切りつつ、左腕の鎖を流れるように地面に落しこむ。

「混沌が無秩序と破壊に向かう概念であり、だからこそ不壊であるとするなら、すべて破壊された彼方の暗黒はどうだ?」

 ルインの口角がわずかに上がり、鎖が重々しく巻き上がり始める。

(ああ、やはりそれを呼び出すのですね、無数の力ある存在を屠ってきたそれを……!)

 暗く半透明に変色する大剣が、恐ろしい唸り声をあげつつ鎖に巻き上げられてくる。

──剣の形に焼き固められた地獄、魔剣ネザーメア。

「少し試させてもらう!」

 ルインは半透明に伸展する斬撃を放ち、バゼリナの檻には深く食い込んだ傷が刻まれた。

──なんと⁉ 我々を凌ぐ『暗黒』だと? まさか……!

「やはり通じるか! 概念には大抵欺瞞ぎまんが含まれる」

(いえ、あなたの使う力が危険すぎるだけですけれども……)

 バゼリナの冷静な心の声は、当然ルインには届かない。

──かくなる上は、我が真の姿で!

 真鍮の内臓のような領域は地震と共に薄れて縮小し始めた。同時に、バゼリナをとらえている檻が上昇する。

「これは!」

「我こそは混沌の捕縛者、シゾルガなり!」

 ルインは灰色の砂原が延々と続く暗い地平に立った。対峙するのは禍々しく淡く光る真鍮色の巨人。しかし、その頭部はバゼリナをとらえた檻であり、頭が無い。

 真鍮の巨人は先端の尖った螺旋状の杖を手にしていたが、その杖のもう一方の先端は棍棒のように不釣り合いに大きく、よくよく見れば薄目で嫌らしい笑みを浮かべた、整った男の頭部だった。

 杖を振り上げたシゾルガに対し、ルインは『瞬身しゅんしん』で後方に下がると、リヴォルバーを二丁持ちして黒炎を纏わせた銃弾を速射する。その全てがシゾルガのすねに命中して青白い火花を上げたが、そこにバゼリナの悲鳴が続いた気がした。

「バゼリナ?」

 しかし、檻の中はよく見えない。

「混沌の炎によって燃え尽きるがいい!」

 杖の頭部の男の口から、黄緑色の毒々しい炎が吐かれた。

「ヴァルドラ!」

 ルインはさらに嵐の魔剣ヴァルドラを呼び出し、横倒しにした竜巻で混沌の炎を蹴散らす。

「このまま、黒炎纏う重い風で斬り潰す!」

 ルインは魔剣ネザーメアを肩に担いだまま、左手で魔剣ヴァルドラを突き出した。シゾルガは不動のまま杖を垂直に構える。

(なぜ防御の姿勢を取らない?)

 真鍮色の巨人の脇腹がえぐられたときに、バゼリナの悲鳴がはっきりと響いた。ルインは剣を引き、大声で呼びかける。

しかし、答えたのはバゼリナではなく、シゾルガだった。

「無駄だ。あの女神はただ頭部になっているのではない。我が身体の痛みは全てあの女神に通るようになっている。そして開放はしない。お前は我々の軍門に降るしかないのだ。無抵抗でなぶり殺されるか、恭順きょうじゅんするがいい」

「なんだと?」

 驚いたルインをシゾルガの棍棒が殴り飛ばした。鋼鉄の何かを叩いたようなおかしな手ごたえをシゾルガは感じたが、黒衣の男は打ち飛ばされ、灰色の砂に長い跡を残して倒れている。

「ああ、何という事を!」

 バゼリナの悲痛な声が響く。シゾルガは勝ち誇ったように話を続けた。

「高位の運命の女神も、伝説の戦士も、このような方法には何ら対処できぬか。下らぬ」

「下らないのはあなたです」

「何だと⁉」

 バゼリナの声は装った気丈さではなかった。ただ静かに呆れており、シゾルガはそこに不気味さを感じた。

「あの方に質を取って女の悲鳴を聞かせるなんて。あの方のことを少しでも知っていたら、恐ろしくて絶対にしない事です。……ほら」

 バゼリナの視線の先を見たシゾルガは、黒衣の男が立ち上がるところを見た。しかし、その全身は闇のようなもやに包まれており良く見えず、その両目が熾火おきびのように赤く燃え光っている。

「……すまないバゼリナ。痛みを与えてしまった」

「律儀ですね。だからといってあなたが私の分の痛みを受ける必要はないのに……。本当に、あなたは変わらないですね。私は大丈夫です。そろそろ帰りましょうか」

 バゼリナはルインに微笑みかけた。

「何だと……!」

「……いつまでも調子に乗るな」

 ルインの姿が消える。突如として、シゾルガの杖が地響きをたてて落下した。

「うっ!」

 バゼリナの両手首に鋭い痛みが走る。シゾルガの両手首の腱が斬られ、杖が落とされたのだ。シゾルガの手首のあたりに一瞬現れたルインはまた姿を消す。

ばくせ、怨嗟えんさの鎖よ」

 シゾルガの巨体は拘束され、落ちた杖もまた鎖で地に縛り付けられた。その顔部分の前に黒炎まとう魔剣を手にしたルインが姿を現す。

「バゼリナを開放しろ」

「こんなことが……!」

 シゾルガの声はしかし、途中から絶叫に変わった。ルインが魔剣ネザーメアを右目に突き刺し、黒い炎がその眼を焼く。

「この剣の向こうの世界が見えたか? もう一度言う。彼女を開放しろ」

 しかし、ルインのこの要求に対して、シゾルガはその対応が理解できないように無反応だった。

「そうか、左目も要らないか……」

 剣を構えたルインに対し、バゼリナが檻の中から声をかけた。

「黒いお方、そのままあなたの黒炎で焼いてください。この存在の本体は私の織機です。ある不始末により混沌に侵食されてしまったのです。杖の部分は糸車ですから私に痛みは伝わりません。ただ、『混沌の涙』と呼ばれる宝石が別に分離しますから、それを逃さないように気を付けてください」

「……やってみよう」

 ルインは杖部分を全て鎖で覆い、黒炎で焼いた。シゾルガは苦悶の叫びをあげていたが、やがて静かになり、青い不透明の宝石で出来た鋭い糸巻きと、見るたびに色の変わり続ける、子供の拳ほどの涙滴型るいてきがたの宝石という、二つの品物に変わる。

「その宝石を逃がさないようにしてください!」

 浮き上がり始めた宝石を掴んだルインは、細くした怨嗟の鎖でこの宝石を縛る。シゾルガの身体と檻も消え、変容する銀色の見事な織機になると、バゼリナはゆっくりと降下した。

 薄桃色の祭服さいふくと黒く長い髪、そして虹のように変色する瞳を持つバゼリナは、ルインの手を取って優雅に着地する。

「本当にご面倒をおかけしました、黒い方。本当は口づけくらいするべきなのでしょうが、それは日を改めましょう。何しろ、あなたは混沌の花の女神とあんな事をしたばかりですし、少し気が引けるのです。でも、私の厄介な宿命はほぼ終わりましたから、この再会を嬉しく思います。この面倒な救出をされたお返しは必ずさせていただきますね!」

「何やら随分と面倒なことに巻き込まれた気もするが、ひとまずこれで落ち着いたのか?」

「はい。私の件はほぼこれで。お話しなくてはならない事は幾つかありますが、あなたは記憶をだいぶ失っているはずです。慎重に言葉を選んで話していく必要がありますね」

「なぜそれを?」

 ルインの疑問に対して、バゼリナは哀し気に一瞬目を伏せた。

「黒い方、先ほどの混沌の女神や私のほかにも、沢山の女性が周りにいるでしょう? これはいずれ起きる事でしたが、むしろそれを利用して、ある未来を避けるべく私は運命に関する権能をほぼすべて使って、この一連の出来事に手を加えています。それが気に入らない展開なら、あなたは私に対して怒る権利がありますが、どう思われますか?」

 ごく短い間、ルインは困ったような表情を浮かべたが、やがて諦めたように笑った。

「やはり君か。しかし、おそらくそれしかないのだろう?」

「はい。それしかありません」

「なら仕方ない。ただ……」

 おそらくこの男が何を言うか予測していたバゼリナは、それでも覚悟して聞いた。

「おれはもう、どんな女とも関係が深まる事を望んではいない。おれの中で全ては終わっており、誰の想いにも応える気はない。なのに彼女たちの運命を人質に、深くかかわらざるを得ないこの流れは、彼女たちの心を深く傷つけるのではないかととても懸念している」

「辛いですか?」

「彼女たちが傷つくのは避けたいが、かと言ってもう誰かを愛する気にはなれない。これは変えられない事だ」

「きっとそう答えると思っていました。昔から変わらないんですね。でも、そこにあなたのかつての愛の限界があることにお気づきですか?」

「おれの愛の、限界?」

「はい。あなたは愛という言葉を否定していましたよね? 『人や神の心に愛などない』と。一方で、激しい戦いの末に悟られたあなたは真の武力や知恵の本質に気づいてもいました。『真の知恵ある者は自由。真の強者は自由』と」

 ルインの目がやや細められた。

「何が言いたい?」

「もしも、『真の愛』が存在するとしたら、それは互いを自由にするものではないでしょうか?」

「……いや、それは危険すぎないか?」

「しかし皆、あなたがいなければ汚され、失われるはずだった者たちですよ? だからこそ、あなたの終わりのない旅に寄り添える人が現れるかもしれない。……もちろん、誰も現れない可能性も、複数現れる可能性もあります。いずれにせよ、あなたが救われなければ、やがて無限世界全域は闇の炎に全て焼かれてしまうでしょうし」

「……それでもおれは、おれの在り方を通すだけだ」

「それで良いと思います。今は」

 頑ななルインの事情をよく知っているバゼリナは、暗いルインの目を真っ直ぐに覗き込んだ。遠い遠い悲しみと、全てを憎んで破壊する権利に等しい不条理を背負わされた男の、暗く静かな目。

 しかしなお、その行動は気高く優しく、この男の戦いの末に救いが無いなら、それはもう世界そのものが救われるべきものではないとさえ、バゼリナは考えていた。

 やがて、ルインがゆっくりと口を開いた。

「ところで、どうやって帰る?」

「……そうでした」

 おかしみと共に、喫緊の別の大問題が浮上していた。

──混沌の花の神ヴァラリスは、かつては美しく短命な花の神だったとされている。死しては復活を繰り返す末に、神としての永遠性に疑問を持った彼女は、ある時混沌に飲まれて永遠性を手にし、以降は混沌の神の一柱となったと伝わる。

──著者不明、禁書『混沌神名録』より。

first draft:2021.10.15

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