第三十五話 月の魔女、月の遺児

第三十五話 月の魔女、月の遺児

 世界樹の上層の枝。

「撃ち方やめ! 何かおかしいぞ!」

 古き民アールンの射手を率いていた男が全員に呼び掛けた。セレッサもそれに倣い、攻城弓から手を離す。

「あれは何だ? いつもと違うぞ!」

 赤い月は『二つの世界樹の都』をにらむのをやめ、その眼が瞳孔どうこうの開いた死者のものとなり、かぐろい闇の穴が広がった。そこから何が見えるわけでもないのに、怖気の走る底知れない恐怖が見る者の心を震わせる。

「歌が……聞こえる……!」

 最初、それは歌ともかすかなうなりともつかない、ごく小さなものだった。しかし、次第にそれは大きくなり、言霊に激しい憎悪と羨望せんぼうが含まれている、歌とわかるものに変わっていった。

──帰りたい。憎い。懐かしい。私たちは悪くない……!

──ここはあまりに冷たく、暗く、寂しい……!

──憎い憎い憎い憎い憎い憎い……!

 無軌道な憎悪だが、それが歪んだ歌のように、純粋な呪詛じゅそとして作用している危険な気配があり、古き民の射手たちは色を失い始めた。負けじと三種族の歌い手たちが歌を唄うが、その歌のどこかに心の揺らぎが現れ始めており、精霊の力が不安定になり始める。

 セレッサはそこに、ラヴナの指摘していた欺瞞ぎまんの話を思い出した。

「何が?」

「力が不安定だ! 退避しろ!」

 雷槍らいそうを担当していた翼の民フェディルの戦士たちは、その白い翼で浮かぶ力に不安定さを感じ始めたらしく、空中の持ち場から世界樹の枝に戻り始めた。

「何か出て来るぞ!」

 暗黒の穴と化した月の瞳孔の闇が赤黒く濁り始め、乾いた血のような茶色が強くなり、腐った膿のような雫が形作られると、それはゆっくりと落ちてきた。落ちてくるにつれ、その濁った塊の周囲を取り囲む、十ほどの赤い点も見えてくる。

「月の魔女たちだ! しかし、あの大きいのはなんだ?」

「嫌な予感がする! 迎撃の準備を!」

 しかし、歌と精霊の力が弱まったせいか、放たれた魔力の矢は明らかに減衰げんすいしていた。

精霊力せいれいりょくが!」

 かたまりと赤い点はぐんぐん大きくなり、赤い点だったものは赤黒い邪悪なもやをまとう女の姿をした者たち、茶色の塊は腐った臓器とも不定形のスライムともわからないもののまま、上層の魔法陣のやや上の空中に制止した。

「月の魔女が十人も!」

 誰ともなく驚きの声を上げている。月の魔女たちは青白い肌に、黒い襤褸のような布地を纏っており、全員が闇の立ちのぼる長い髪と畸形の非対称な白い翼を持ち、その眼は赤く濁っていた。

 魔女たちは金切り声を上げてむせび泣き、これで翼の民たちのほとんどの翼が維持できなくなり消えてしまった。世界樹の淡い輝きもまた、次第に陰っていく。

──ああ、生命に罪はないというのに、我らを否定して追い払った同族よ! ここまでの殺戮さつりくを繰り返してもなお、取り澄ました生にしがみつくというなら、我ら追われし者たちもまた、どこまでもしがみついて見せようぞ!

 意外にもしっかりした言葉で魔女の一人が声を上げた。別の魔女たちも言葉を継ぐ。

──魔胎またいより出でよ、我らの子らよ! 焦がれし大地と世界樹に、我らは帰って来たのだ!

──出でよ遺児いじたちよ! 今こそ降誕こうたんの時!

 魔女たちは怨嗟えんさ漂う叫びめいた歌を、血の涙を流しつつ歌い始めた。

──混ざり合った我々を愛しき大地と世界樹から追い払った者たちよ、焦がれし我らの怨嗟は闇の遺児となりて彷徨さまよう。その報いを受けるがいい!

 魔女たちの取り囲んでいた大きな塊は次第に濁った球体となり、しばし不気味にうごめくと縦に一つの亀裂が入り血膿が滴り始め、すさまじい腐臭も漂い始めた。三種族の戦士たちには戦意を失って吐き戻すものも出始めている。

──生まれるがいい、月の遺児たちよ!

 魔女たちの呼びかけと共に、濁った球体の裂け目から、腐肉ふにくのまばらについた骨の手が現れると、それは裂け目を広げ、糸を引く腐汁ふじゅうが魔法陣に滴り、悪臭漂う湯気をあげた。

 ずるり、と白骨に近い腐った大きな骸骨がいこつが出て来るが、その骨の各所から、人や獣の様々な骸骨が無数に生えてうごめいており、本体と言える骸骨さえ腕や足の数がでたらめなうえに複数の畸形きけいの翼の骨格も生え、腹にも幾つかの腐った頭蓋骨の塊があった。

──月の遺児たち。

 非常におぞましいがどこか赤子のようなそれは、涙を誘うほどの哀れさを感じさせる化け物でもあった。

(何ですか? これは……!)

 袖を口に当てたまま絶句するセレッサ。しかし世界樹の都の三種族の表情からはこの存在が何か知っているような、どこか罪悪感の漂うおかしな空気も漂っていた。

「あれは何なんですか? あのようなものが生まれる理由を皆さんは知っているんですか?」

 セレッサは周囲の古き民の射手たちに問いただしたが皆微妙な困惑を浮かべている。セレッサはもう一度問おうとしたが、そこで月の遺児が天に向かって大きく口を開け、震えながら恐ろしい叫びをあげた。さらに、その口から無数の霊魂のようなものが吹き出して下方に向かっていく。

「いかん! 『反魂はんごんの術』だ!」

 古き民の射手たちが色めき立つ。

「何ですって?」

 セレッサもその術の事は知っている。死霊術の一種であり、肉体から離れた魂を強制的に元の肉体に戻すものだ。そして現在、最も多くの魔物の死体があるのはおそらく最下層で迎撃しているウロンダリアの仲間たちのところだ。

「させるものですか!」

 セレッサは白銀の攻城弓を引き絞り、魔女の一人に向けて強力な青い魔力の矢を放つ。閃光のようなそれは次第に闇のもやに絡めとられて減衰げんすいし、やがて霧散してしまった。

(これは!)

 この魔女たちは既に肉体を失っており、負の世界に住まう死者の可能性が出てきていた。この場合、現世の魔力は正であり、正および生の力が極めて貧困な負及び死の世界では、魔力はあっさりと減衰して消滅してしまう事がある。これは幾つかの属性以外では攻撃がほぼ無効化されることを意味してもいた。

(しかしなぜ、これほどの怨念を?)

 ラヴナの言っていた欺瞞ぎまんが、セレッサの心の中でも大きくなりつつあった。

──旅立てない霊魂がいつまでも強い情念を残したままで地に縛られていると、それはやがて、他の情念を吸い込み続けて大きくなり、やがて怨霊と化し、遂には魔物となる。このような状態になった死者を救うのは並大抵のことではない。慈悲と理解が必要だからだ。

──ルーガン・ファダル著『闇を照らす』より。

 虚無と化した領域。

 混沌カオス捕縛者ほばくしゃシゾルガを討ち再会したルインとバゼリナは、灰とも砂ともつかない細やかなものがどこまでも広がる薄明るい世界に二人で立ち尽くしていた。二人の周囲には日没前後の薄明かりが差しているが、遠くは闇であり光源も無い。二人の強い認識が失われた領域をわずかに存在させているのみだった。

「さてと、帰る方法はいくつか思い当たりますが、この場合は……黒い方、あなたの記憶を少し取り戻すのが一番早いのですが、それは気が引けます。少しだけ永劫回帰獄ネザーメア黒炎こくえんを分けていただいても良いですか?」

「おれには全く見当もつかない。任せるよ」

「では、あなたの恐ろしい黒い剣を水平に構えていただけますか? 私の糸車を使いますので」

「そんな事が? わかった」

 ルインは黒い鎖を絡めて腰に吊るしていた魔剣ネザーメアを引き抜き、水平に構えた。重々しい金属の擦れ合う音がし、多くの存在が恐れる魔剣は静かなうなり声をあげる。暗くも無数の色のよぎる闇めいた剣身には、さらに様々な色で燃える文言や印章シグナイトが現れては消えていく。しかしそれでもなお全ては闇を思わせた。

 バゼリナは青金の美しく輝く糸巻を回しつつ、魔剣の文言を慎重になぞり、読みあげていく。

「我らは偽りの光輝を捨てん。全ては呪いのごとく、欺瞞ぎまんの如くある。生の始まりはくらく、死の終わりもまた冥し。しかして我々は永劫の闇の名において、全ての傲慢なる者どもを打ち砕かん。おごれるものよ。汝らは虚栄の王。永劫回帰の定めは汝らを決して許さぬであろう。然して我は死なり。汝らの死なり」

──永劫回帰獄碑文ネザーメア・テスタメント

 神々の不都合を全て封じているとされる禁忌の領域と、この恐ろしい地獄の門たる魔剣の何かを示唆しさするとされる文言の一つだった。

「うっ!」

 魔剣の表面は澄んだ黒い炎を放ち、バゼリナの白い指を包むが、その炎は全くその指を燃やさない。その様子を見たバゼリナは視線を剣からルインに移して微笑んだ。

「やっぱり、今でも私は焼かれませんね。黒い方、これはあなたの優しさですか? それとも、私たちの位が高いから? または……」

「位が高いからだろう?」

「そういう事にしておきましょうか。では、少しだけ闇の炎を頂きますね」

 微笑みつつバゼリナは黒い炎をすくい上げ、器用にこねて細い糸のようにすると、美しい糸巻きにくるくると巻き取り始めた。

「運命を司る権能けんのうはしばし手放していますが、機織はたおりの権能はそのままです。私につむげぬ糸はなく、編めぬ生地もありません。この力で今後はしばらくお役に立とうと思います。そして黒い方、かつて私が編んだマントは既に手元にないでしょう? 留め具などは永劫回帰獄ネザーメアの鍛冶神に作ってもらえばよいと思います。この炎で編まれたマントは、あの領域を通して無限世界イスターナル全域を俯瞰することも可能ですから、後は私の権能とあなたの力で『二つの世界樹の都』に渡りましょう」

「面倒をかけるな」

「いいえ。とても楽しいですからお気になさらずに。はたを降りつつ昔のお話でもしましょうか。時を気にする必要はないのですし」

 バゼリナはルインの傍に青く美しい敷物を出し、さらに青銀の複雑な織機を呼び出して、機織りの準備に取り掛かった。

「慌てても仕方ない、か」

 ルインは胡坐あぐらで座り、魔剣を自分に立てかける。宙に浮いた糸巻は黒い炎からくるくると糸を巻き、そこから機織り機と(※機織りで横糸を通す道具。シャトル)に糸が勝手に流れ、巻き込まれていく。

「昔もこんな事がありましたね。『蒼い城』での事ですが」

「そうだったか?」

「はい。マリー様がそれはもう駄々をこねて、あなたのマントをあげたのです。覚えておいでですか?」

「マリー?」

 ルインの脳裏に一瞬だけ、銀髪の美しい女が涙ながらに何かを訴える姿が浮かび上がったが、それはすぐに消えてしまった。記憶と言うには確証の持てないそれにルインは困惑する。

「覚えているような、覚えていないような。バゼリナの名前は思い出せたんだけどな」

「あら意外ですね? 『陽炎かげろうの武神』と呼ばれるマリーシア様の事です。とはいえあの方は実態を捉えられないのが権能の一部ですからそのせいもあるのかもしれませんね。永遠の地の戦女神では別格に強く美しい武神です。ただ、少々思い切りの良すぎる部分をお持ちでしばしば女神らしからぬ乱暴さを発揮する部分もあるお方でしたし、初対面の時にはあなたを殺そうとしましたから憶えておきたくないのかもしれません」

「おれを殺そうとした?」

「やっぱり忘れておいでですね。とはいえ男女間の事ですし、私があまり語るのも気が引けてしまいます。……あ、黒い方、そろそろ機を織るので闇で包みますね。覗き見はなさらないでください。……私を妻にしたい場合は別ですが」

 バゼリナは鈴が転がるような声で笑い、機織り機とその姿は闇で包まれ、ルインは星の海のただなかに座していた。機を織る音が響き始めたが、それは神秘的な楽器のように美しい音で、ルインの耳に心地よいものだった。

「神秘のあやを織る私の権能は、紡がれる運命の暗喩あんゆでもあります。これは秘されねばならぬものですから、みだりにはお見せできません。ただ、縦糸と横糸に私の権能、これはファティスの星の海の秩序のようなもの。あなたの心も少し休まるかと存じます」

「……ありがとう」

 ルインは自分の領域にとどまっているわずかな疲労を開放し、少しだけ眠りに落ちることにした。焦らぬこともまた強さだった。

──多くの場合、機を織る女神たちの作業を覗いてはならないとされている。女神の機織りには運命とこの世の仕組み、時には出産にまつわる秘密までが隠されているとされ、より上層の神々は彼女たちの機を織る姿を禁忌としてしまったからである。

──エリネス・サギン著『機を織る』序文より。

 二つの世界樹の都、『高き渡り枝の街』ル・ラーナ・シ・リーア。

 月の落涙による新手の魔物の落下は収まったものの、殺したはずの魔物たちが何度も蘇るという不可解な事態にウロンダリアの戦士たちは困惑していた。

 各自の左肩のあたりを漂っていた世界樹の分霊も、妖精のような姿だったものが今は蛍のように微弱な光となり、何の言葉も伝えてこない。

「ロザリエ」

 周囲に爆発する火球をいくつも浮かべては、起き上がった大柄な魔物たちを粉々にしつつ、ラヴナは真面目に呼びかける。

 『薔薇の眠り人』ロザリエも、ようやく本を畳んで立ち上がった。

「上ね。何か厄介なものが来ているようだわ」

 既にロザリエも微笑してはいなかった。

「あたしが見て来るわ。ロザリエ、あなたは魔物たちを荊の力で拘束できるでしょ? 皆が消耗しないようにしておきたいの」

「……わかったわ。任せておいて」

「頼むわ。それとアーシェラ、皆の体力の回復と、浄化系の祈願はどう?」

 青白い幻影の翼を持つアーシェラが応じる。

「ヘルセス様のお力で、皆様の体力は十全に等しく保てています。ただ、怨念と魂魄こんぱくを縛る力が強すぎて、『死者の帰魂きこん』などの祈願はほぼ効果がないとヘルセス様が仰っています。この地に強い因縁があるとかで」

「ん、やっぱりね。何か不都合が隠されているのよ。少し上を見て来るわ。みんな無理はしないで!」

 ラヴナは上層の魔法陣を見やった。

「さてと……いずれルイン様も帰って来るでしょうし、翼は広げたくないわね……」

 真の姿の一部でも出したくないラヴナは、自分の影に手をかざし、従者じゅうしゃを呼び出す。

「おいで、シベレー」

 ラヴナの影の中から、蒼く輝く目をした大きな黒い獅子がのそりと現れた。周囲の皆が息を呑むほどの迫力があったが、この獅子は意外にも従順で、ラヴナが乗りやすいようにすぐに身を伏せる。

「あたしを一番上の魔法陣まで連れて行って欲しいの。久しぶりに一緒に戦うのもいいわね」

──承知しました、我が母なるお方。

「いい子ね」

 ラヴナは大きな獅子の頭を撫でまわして抱き着くと、その大きな背中に横座りした。黒い獅子シベレーは伸びをして黒い翼を広げ、枝や建物を足場に矢のような勢いで上層へと姿を消してしまった。そんなラヴナの姿を薔薇の眠り人ロザリエは微笑んで見送る。

「ラヴナ姫って本当に自由よね。まあいいわ。そんなあなたが私に頼みごとをするなら、私もそれには応えるわ。……みんな、一旦退避して!」

 眠り女たちの働きで退路を確保し、ヴァスモーの百人隊や工兵隊、ジノ率いる猫の戦士たち、老べスタス率いる冒険者たちも次々と頑丈な駐屯地ちゅうとんちに撤退してくる。やがて、眠り女たちと各集団の代表たち、そしてロザリエだけが残った。

 累々と散らばる魔物たちの死体の破片が不気味にうごめき、口のある死体が意味不明の呪詛じゅその言葉をつぶやきながら、それらの肉片は次第に一つ所に集まり何かを形作り始めている。

「何かが明らかになるまでこの建物と化け物たちをいばらで封じるわ。ああそう、私の力が見たい人は……」

 ロザリエはドーム状になった駐屯地の頂上、見張り所のように作られたバルコニーを見止めた。

「うん、あそこがいいわね。あそこで力を使うわ。さて……みんなであそこに行きましょう?」

 しかしここで、死肉の塊は数体の巨大な人のような姿となり、引きずるような歩き方で駐屯地に向かい始めた。

──憎い憎い憎い憎い憎い……!

「あらあら、先にこちらね」

 その叫びは言葉が無くても感じ取れるほどだった。ロザリエはどこか奥ゆかしい笑みを浮かべて、見事な荊の絡むこしらええの小剣を抜き、誓いを立てるように垂直に構える。

「我が剣『蒼き薔薇の情熱』よ、清く然るべく自然の力において落葉帰根らくようきこんの理を!」

 数体の死肉の巨人の足元が青白く光り、清冽せいれつに輝く荊が貫きつつも複雑に絡み、死肉の巨人たちは荊の塊と化して動けなくなってしまった。

「怨念に囚われたあなたたちの真の因果を取り除いてあげることは、私にもできないわ。しかし、全ての魂魄こんぱくはやがて天地に帰るものよ。あなたたちの強い怨恨でさえいずれ地に還るわ。それを思い出して少し眠る事ね」

 さらにロザリエは駐屯地のバルコニーまで続く荊の階段を出現させた。

「中から行くのは遠回りだものね。私って結構気が短いのよ。みんなもついてきたらいいわ」

 苦笑しつつさっさと歩くロザリエ。眠り女や代表たちも同じように、光る荊の上を慎重に歩きながらバルコニーに至った。ロザリエは青い小剣を腰に戻し、次は黒曜石こくようせきのように黒い、やはり見事な荊の拵えのされた長剣を抜く。

「『黒き薔薇の冷静』よ、清く然るべく、触れ得ざる秘境の如くこの地を隠し、護り給え!」

 ロザリエは黒い荊の剣で複雑な印章シグナイトを描いた。空間が大きく震え、薄い青紫の光と共に、頑丈な荊が駐屯地や街の建物全てを覆い隠してしまった。

「さあ、これでこの地は我が領域。難攻不落の荊の城よ。状況が分かるまで皆少し休んだらいいわ」

 かつて『混沌戦争カオス・バトル』を戦い、混沌の花の神ヴァラリスを刺し違えるように追い払ったとされる『薔薇の眠り人』ロザリエ・リキア。その底の知れない力に、誰もが言葉を失うと同時に、ひとまずの休息ももたらされていた。

──『薔薇の眠り人』ロザリエ・リキアの愛用する二振りの剣は、青い小剣が『蒼き薔薇の情熱』、黒い長剣が『黒き薔薇の冷静』と呼ばれる。それぞれが深い由来のある、神具に等しい力を持つ武器とされている。

──ベル・フィアルス著『眠り人列伝』より。

first draft:2021.11.19

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