第二十九話 テア・ユグラ・リーアの戦い

第二十九話 テア・ユグラ・リーアの戦い

 バゼルとルイン、そしてシェアを欠いた状態の探索者集団は、暗黒に若草色の印章いんしょぅがえんえんと連続した、おそらく高度な魔法の術式により構築された地平に立っていた。

 双子の世界樹せかいじゅの精霊の声がそれぞれの脳内に直接響く。

──船の民と月の民の高度な術式により、これより、あなたがたの時と世界の座標を、かつて存在した世界ウル・インテスへと転送し、わが『二つの世界樹の都』テア・ユグラ・リーア中期最大のわざわいが起きた位置に転移します。

「ふ、船の民じゃと⁉ 何という事じゃ……!」

 老べスタスが収まらぬ興奮をより強めていた。ウロンダリアで名前だけはささやかれるが、その痕跡がほとんど見られない、謎の多い『船の民』。その関与を精霊たちははっきりと口にしていた。

 再び、世界樹の精霊たちの声が続く。

──かつて、多くの種族と豊かな自然に恵まれていた私たちの世界は、その無数に分岐する世界の可能性を俯瞰ふかんし、いつか『永遠の地』に至るために、自らの歴史や運命の流れを制御して、そうあらんと願いました。

──しかし、どうしても超えられない災いが二つありました。私たちの罪と過ちが生み出してしまった、『赤き月』の哀しき魔物と化した者たちによる災いと、時と歴史に干渉した事により下された、界央セトラの勢力『隠れし神々』による断罪の終末です。

──ここで、あなた方の力をお借りして赤き月のわざわいを超えられれば、おそらく断罪の終末に『あの方』が現れ、その顛末をあなたたちにお見せすることができるでしょう。そして、時を超えてこの都を、あなたたちと、あの方に託すことが叶うはずなのです。

 探索者集団たちはこの話を真剣に聞いていたが、しかし全てを理解出来た者はほとんど居なかった。その中で、ラヴナだけはこの話から概要がいよう推測すいそくできていた。

(ああ、そういう事ね。あたしがここにいるのはルイン様との縁によるのだわ)

 また、バルドスタ戦教国せんきょうこくの王女にして、戦女神いくさめがみヘルセスの使徒であるアーシェラにも、女神ヘルセスが推測を示した。

──アーシェラ、世界の終末に現れる界央の勢力と渡り合える存在は、あなたの慕うあの方しかいません。この出来事は私とあなたの、あの方との縁によるところが大きいでしょう。この戦いに加わった兵たちにも何らかの祝福が与えられるはずです。存分におやりなさい。

(はい。思う存分戦わせていただきます!)

 双子の世界樹の精霊の話は続く。

──これより、あなたたちが転移する『二つの世界樹の都』テア・ユグラ・リーアの位置関係と戦況、あなたたちに加勢を望む、戦況芳しくない場所を心に直接お送りいたします。

 突如として視界が開け、皆が驚嘆きょうたんの声をあげた。階段状になった四層の湖と、その背後にはやや斜めの位置関係で、大山がそのまま雲を突き抜けて伸びたような二つの世界樹が立っている。視界の半分以上を埋め尽くすその巨大さに、誰もが息を呑んだ。

 さらに、最下層の大きな湖には長い一本の優美な橋が架かっており、その橋の行きつく先は二本の世界樹を結ぶように建てられた高層城壁だった。その城壁の向こうには、世界樹せかいじゅには全く及ばない高さではあるものの、白く鈍く輝く沢山の塔や建物が立ち並んでいる。その優美な様式もまた、たいそうな美しさと調和を感じさせた。

「これが、『失われた七都』の一つ、『二つの世界樹の都』テア・ユグラ・リーア……!」

 誰ともなく、同じような呟きがため息のようにこぼれていた。

 しかし感動する間もなく、探索者たちの心の中にこの美しい都と世界樹を破壊せんとする勢力の暴挙と惨状が流れ込んでくる。

 世界樹の都のはるか上空に座す、赤い月。その月は凝視ぎょうしする目のような禍々まがまがしいしい姿に変わっており、血涙が長い糸を引くように滴り続けている。しかし、よくよく見ればそれは膨大ぼうだいな数の異形の魔物たちだった。それらが害虫のように世界樹と都で暴れまわっている。

「ここまで来て、この美しい都を失わせるわけにはいかぬ!」

 老べスタスが思わず声に出した叫びは皆の士気をさらに上げた。

──私たちは可能な限り、あなたたちの怪我と魔力を回復いたします。どうか、この都をお守りください! 意思の疎通は私たちの分霊をあなた方に付けます。

 二柱の世界樹の精霊から白みがかった若草色の光の球が無数に飛散し、それぞれのウロンダリアの戦士たちのそばで妖精のような姿を取る。

 さらに、それぞれの脳内に実力や能力に合った、戦うべき場所が割り振られ、光に包まれて転移していく。終末に等しい禍いの中、数奇な運命に導かれたウロンダリアの戦士たちの戦いが始まった。

──ウル・インテスは自然あふれる美しい世界だった。しかし、稀に起きる大災害により幾つかの種族の文明も生まれては消滅し、最後に残ったのは世界樹と共にある古き民アールン、かつて星の海にまで街を作った月の民ユイエラ、雲海の中に隠れ住んでいた翼の民フェディルのみとなった。

──著者不明の古文書『テア・ユグラ・リーア(二つの世界樹の国)』より。

 老べスタスと『深淵しんえん探索者協会たんさくしゃきょうかい』の有志の冒険者たちは、二つの世界樹に挟まれた都の大きな広場を見下ろす建物の屋上に出現した。

「何じゃこれは!」

 つたのような繊細な意匠いしょうの噴水が特徴的な広場は、まるで自然の摂理せつりに神の意匠が入り込んだような美意識に溢れていたが、その広場は背の高い細面ほそおもての美しい人々が形成した力場で覆われ、赤黒い煙を吐く異形の化け物が豆のさやを伸ばしたようなこぶのある触手をでたらめに振り回している。

──赤い月の魔物の一種、ゴ・ズドゥガの母体です。陸棲りくせいの装甲された化け物烏賊いかのようなものと理解してください。

 べスタスや冒険者たちの肩の傍に浮かぶ妖精が、この大きな異形の魔物に関する情報を共有する。この情報を老べスタスは長年の勘で素早く分析し、冒険者たちに指示を出した。

「射手はまずなまりやじりを打ち込み、様子を見て魔力付与ふよしたやじりで触手の付け根と眼の間を狙え! 魔法戦士は炎または氷、可能なら雷電らいでんを付与せよ! 魔術師は攻撃なら火炎及び氷雪を交互に撃ち込め! 戦士はまずは触手を無力化するのだ!」

 この指示の間にも、装甲した巨大烏賊きょだいいかのようなゴ・ズドゥガは、振り回した触手が容易く建物をえぐり、めちゃくちゃに破壊している。牙のようなとげのある触手は壁の石材さえものともせず粉々にしていた。

「我らは探索者じゃが、今この瞬間は勇者じゃ! 総員、経験と共に狡猾こうかつな狩人となれい!」

 熟練の探索者たちは素早く位置を取り、攻撃を開始した。

──赤い月の夜に煙を吐き出す大きな烏賊いかが現れ、しばしば海辺の町が半壊した事があるらしい。牙の並ぶ触手は石組みの家を粉々にし、その胴体は硬くて大弓でも貫通しなかったと伝えられているが、この魔物の名前は伝わっていない。

──クリスカール・レルエス著『赤月禍せきげつか』より。

 猫の剣士『見極める灰色』ジノと、その仲間のカルツ族の猫の戦士たちは、世界樹の幹の中らしい小さな村に転送された。雨が降る事がないため屋根の無い壁だけの家々が続く村だが、その壁は淡い光と温もりを放ち、優美な意匠いしょうに凝っている素晴らしいものだった。

「ここは?」

 しかし、この街のあちこちに即席の見張り台が組まれており、古き民アールンの射手たちが頭上に目を凝らしている。

 外の光を通す世界樹の洞は眩しいほどに光を放っていたが、何箇所かかぐろい穴が開いていた。

 世界樹の分霊ぶんれいがジノたちに説明する。

──上層の折れた枝からかつての道管内を通って、小型の月の魔物が世界樹の内部を目指そうとしています。何とかここで食い止めていただければと。

 まさにその瞬間に、かぐろい穴からダニを猪くらいの大きさにして嫌悪感を増した姿にした、甲虫型の魔物たちがわらわらと飛び出し、落ちてきた。

「ギッギッギッギッ!」

 落ちてきた甲虫は嫌な音で甲羅を鳴らし、何本もの足を波打たせて得物を探し始める。その口吻こうふんは金属のような光沢をもった螺旋状の長い槍のようで、刺されたらひとたまりもなさそうだった。

──赤き月の甲虫、バルヂム・ギラです。世界樹の内部を無秩序に穿孔せんこうし、寄生性の邪悪な虫の魔物の苗床なえどこを作る、忌むべき存在です。

 世界樹の分霊が概要を説明する。

「なるほど、他の種族には足場の悪いこの村も、私たちにはなんて事は無い。……行くぞ、猫の戦士たちよ! この都のことは決して他人事ではないのだから!」

 ジノは細身の剣を抜いて仲間を鼓舞した。猫の戦士たちは落ちてくるバルヂム・ギラに対して、果敢に攻撃を仕掛け始めた。

──赤い月の魔物の中には、世界樹に寄生してその力を吸い、やがて魔王と化す宿り木のような存在や、巨大な蛾のような魔物になる存在もいるとされる。しかし、その真偽は定かではない。

──クリスカール・レルエス著『赤月禍』より。

 魔の都のヴァスモー(※緑肌の巨躯の人種)の百人隊長、ギュルスと百人隊、そして工兵隊こうへいたいたちは、山々を見下ろす世界樹の大枝の街に転送された。

「うおお、くそ高ぇ所に街があったもんだぜ!」

 化石化して水晶のように変質した半透明の城壁は美しいが、現在は所々から煙が上がっており、油とも血ともつかない赤黒い液体であちこちが汚れている。

──何とかして止めるんだ!

 聞きなれない精神の声が伝わり、ギュルスは声の方向と思しき優美な城門を見た。細身で背の高い人々が破壊されつつある城門を支えているが、狂気じみた衝撃に次第に押され始めている。

「工兵隊、油と爆薬はどれだけある?」

 黒い肌をした魔の国の工兵隊の隊長は、荷車をすばやく確認して答えた。

「油は荷車で一台、爆薬は樽詰たるづめのものが二台分あります!」

「おっしゃあ、城壁の上から敵さん吹っ飛ばして、油撒いて火をかけちまえ! 勢いが収まったら討って出て、その隙に城門を直しちまうぞ!」

「はっ!」

「世界樹の都の人らよ、そんな体格じゃあ大変だろうが。おれらに任せときな!」

 世界樹の都の優美な人々の三人分をも超える横幅を持つ緑肌の屈強なヴァスモー兵たちの出現に、テア・ユグラ・リーアの人々はひどく驚いたが、すぐにその表情は何かを願うような悲痛なものになった。

「へっ、任せときな! 助っ人に来ました、やられましたじゃ恰好がつかねえからよ! 総員、戦闘準備! 食い散らかすぜ!」

「応ッ!」

 野太く力強い掛け声が続く。しかしこの時、押し負けた城門の一瞬の隙をついて何者かが突入してきた。

 ギュルスたちよりも上背うわぜいのあるそれは、たくましい人の身体に四本の腕と一対の翼を持ち、頭部は大きな人の目を持つふくろうのようだった。

──異界からの戦士たちを呼びよせたか、世界樹の精霊め、無駄な事を!

 赤黒い体を持つ異形の存在は、ギュルスたちを見下ろしてあざけるように笑った。世界樹の民たちはこの異形をさして『クヴァ・アタル!』と口々に叫んでおり、その叫びには恐怖が感じられていた。

鉄輪てつりん、放て!」

 しかし、隙の無いギュルスの指示により、何人かのヴァスモー兵たちが錠付きの鉄輪を投げつけ、一本がこの異形の腕をとらえた。ギュルスは鉄輪に繋がる鎖を受け取ると、全員に指示を出す。

「こいつはおれが焼き鳥にして食っちまうぜ! お前らは指示通りに動け!」

──豚人間が、我々の戦いに介入するか!

「おめぇは言っちゃならねえことを言ったな。泣いて『焼き鳥にしてください』っつってもいたぶり殺してやらぁ!」

──我らクヴァ・アタルは月の魔物の中でも高位の存在だ。舐めるな!

「へっ、てめえこそ!」

 ギュルスは魔力の淡い光の躍る大斧を構えたのち、深く息を吸い込み、心を整えた。魔物と呼ばれる種族が操れる、原始的な自然そのものの言語を呼び起こし、練る。

大きいファ!」

 猛烈な火炎が、ギュルスの口から吐かれるように放たれる。クヴァ・アタルは腕をかざしたが、それでも翼の大部分に火がついて燃えた。

──竜の言葉だと⁉

「戦士のヴァスモー族を舐めんじゃねえぞ梟頭が!」

──面白い!

 月の魔物クヴァ・アタルと、魔の都のヴァスモーの戦士の奇妙な戦いが始まろうとしていた。

──ダギの言語はそれが本当に竜の言語と呼んでよいのか議論が分かれている。自然の中に溢れる力に干渉できる言語は幾つかあるが、このうち最も原始的かつ根源的な物を我々は竜言語ダギ・テラと読んでいるが、真なる自然言語の一種かもしれない。

──ベル・フィアルス著『竜言語ダギ・テラ』序文より。

 眠り女とバルドスタの集団は、二つの世界樹の都の大城壁内部、正門前の広場に転送された。

 おそらく化石化した世界樹を材料として建造された城壁は石材の継ぎ目が見えず、磨かれた大樹の根のような意匠で、内側は多段の空中庭園になっている。色とりどりの花と素晴らしい建築様式は目を見張るものがあったが、激戦が続いていたことを示すように随所ずいしょに死体や血の跡が見られていた。

──ここが最大の激戦地です。大規模な『月の落涙』を二十三波凌ぎましたが、犠牲も大きく……。そして、次の最終波では月の魔女たちも降臨してくるはずです。市街地に侵入した魔物たちもまだ何体か残っています。

 世界樹の分霊ぶんれいが祈るようにささやく。

 いち早く動いたのはラヴナとアーシェラだった。

「これは私の考えだけど、まとまった戦力を持つアーシェラ王女は自分の軍勢を率いて大局を立て直すといいわ。アゼリアとセレッサは城壁の上などからの狙撃が良いと思うの。他のみんなは……大術式だいじゅつしきを持つ人は次の波に備え、そうでない人は市街の残党狩りを優先すべきだわ」

 賛同の声が上がり、それぞれが移動し始める。

 アーシェラはバルドスタの騎士と戦士たちを集結させた。

「私たちはまず城門周辺の残党を蹴散らし、次の波の前に場を整えましょう。……世界樹の精霊よ、正門前の橋で戦う戦士たちにひとまずの撤退を呼び掛けて下さい。我がバルドスタの戦士の勇猛さによってまず残敵を討ち払い、備えを強固なものに致します」

──わかました。外で戦う戦士たちに、最適な頃合いで撤退するように伝えます。

「騎士団よ、『ヘルセスの槍の突撃』を仕掛ける。総員私を先頭に配置に付け! 戦士たちはその後を追い、死に損なった化け物どもを永劫の死に送るのです!」

「はっ!」

 王家の槍を持ったアーシェラを先頭に、百騎あまりのバルドスタの騎士たちが楔型くさびがたに整列する。

「アゼリアさん、セレッサさん、世界樹の都の人たちの撤退の援護をお願いいたします」

 空中庭園の階段を駆け上るセレッサとアゼリアが、それぞれ『わかった』という意味の合図を返して登っていく。

 やがて銃声が鳴り始め、古き民や細身の翼の民、優美な月の民の戦士たちが正門に続々と撤退してきた。

──撤退、完了しました。月の魔物の残党たちが橋の向こうに集結し始めています。

 世界樹の分霊の声が聞こえた。

「良し。親衛鉄血騎士団、整列せよ! これより偉大なる美しき大鷲、軍神ヘルセス様の加護を与え、神の槍となって邪悪を打ち砕きます!」

 アーシェラは王家の槍を天に拝領するかのように掲げた。

──我がバルドの民の子らよ、気高く勇壮であれ。羽搏はばたく大鷲の如く!

 青い炎のような、澄んだ光の柱が立ち上り、それは幻影のように大鷲の翼となって騎士団を包んだ。バルドスタの騎士たちから驚嘆の声が出る。

──ヘルセスの戦翼せんよくの加護。

 騎士たちの武器と鎧を青い幻影の炎が包み、さらにその心を無敵の戦士のように高揚させた。

 折しも、正門が軽快な音と共に全開する。

「行くぞ! 親衛鉄血騎士団、突撃!」

 アーシェラの号令と共に、バルドスタの騎士は楔型陣形で橋の上を薙ぎ払っていく。残っていた月の魔物や集結していた集団は、跳ね飛ばされ貫かれ、遠目にはゴミでも払うように次々と魔物たちが橋から湖に転落していく。

「へーえ、アーシェラったらすごく生き生きしてるわね」

 大城壁正門上に一瞬で移動したラヴナはこの様子を感心して眺めていた。周囲には非常に優美な細い弓を持った月の民と、蒼水晶あおすいしょうの鎧に身を包んだ古き民アールンの戦士たちがいたが、奥ゆかし気にラヴナを見ている。

(美しい人々だけれども、種としては衰退期に入っているのね……)

 美しいがどこか活力が低く線が細い人々に、ラヴナはある種のもの悲しさを感じ取っていた。しかし、そんなラヴナに背後から声をかける者がいた。

「あら? ウロンダリアの上位魔族ニルティスの姫かしら? 私の知っている子にとても似ているけれど、姿が違うわ」

「えっ?」

 振り向いたラヴナは驚きの声をあげた。何もかもが理解不能だが、間違いなく知っている人物がそこにいた。

「私はロザリエ・リキア。ウロンダリアでは『薔薇ばらの眠り人』と呼ばれているわ。事あるごとに私に突っかかる、ラヴナ姫とそっくり同じ魔力を持つあなたは誰かしら?」

 ロザリエはゆったりした黒紫の魔女のドレスに、騎士の具足と籠手を着け、腰には大小二振りの剣を帯びている。さらにとんがり帽子をかぶっているが、魔女とも騎士ともつかない服装だった。

──節制せっせいを司る『薔薇の眠り人』ロザリエ・リキア。

 濃い琥珀色こはくいろの長い髪はわずかに汗に濡れていたが、それでも薔薇のよい香りがし、深い青紫の目には静かな笑みが浮かんでいる。

「ロザリエ⁉ え? なぜここに?」

「ああ、理解したわ。あなたは姿を変えたラヴナ姫ね? それで、いつの時代から来たのかしら?」

 何か悪戯いたずらでも考えているような笑みを浮かべてロザリエは笑う。

「どういう事なの……⁉」

一方で、ラヴナはただただ驚愕していた。彼女の長い人生でこれほど驚いたことは無かった。

──赤い月シンの起こす『月の落涙』は、大規模なものだと最終的には『赤い月の魔女』と呼ばれる存在が降りてきて大災厄をもたらすと伝えられている。しかし、今までその存在が実証・確認されたことはない。

──クリスカール・レルエス著『赤月禍』より。

first draft:2021.10.01

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