第十話 バルドスタの夜会・後編

第十話 バルドスタの夜会・後編

 ルインの言葉で静まり返った大広間は、しかし長くはその沈黙を保たず散発的な拍手によって破られた。賛同よりは皮肉な(あざけ)りを感じさせるその拍手は、上部のバルコニー席から響いてくる。赤と黒の質の良い礼服を着た、がっしりした体格に鷲鼻わしばなと灰色の髪の男だった。男は階段をゆっくりと降り来て、ルインに一礼する。

「初めまして、眠り人と眠り女の方々。私は財務大臣ベティエル・ルグラントと申す。この古きウロンダリアにおいては最高の財務を学べるアステフェリオン家に師事いたしましたる者の一人です。以降お見知りおきを。それにしても先日、工人の都市国家の外ではアポス卿の率いる我が派閥の兵たちを大混乱に陥れたとの事で、是非とも一度対話したいと思っておりました。しかし、感心いたしませぬなぁ。我が国の形式上の王女様の短慮で古い考えにほだされ、このような場で相手の国を侮辱するとは。わが国には我が国の流儀というものがある」

僭越せんえつが過ぎますわね!」

 ベネリスは声を荒げたが、ルインがそれを制止した。

「なるほど、天幕てんまくに商売女を招き、膝の上に乗せて酒を呑みつつ軍議をするのが貴殿らの流儀か。確かに新しすぎてついていけんな」

 ルインは不敵に笑った。この事実は知らない者が多かったようで、ひそめたささやきが広間に広がる。ベティエルは顔を真っ赤にしたが、苦々しそうに短く返した。

「……夜会は存分に楽しんでいかれよ。私は多忙ゆえ、これにて失礼する!」

「夜会をここで退出するかね。これもまたなかなかに斬新な流儀だな」

「好きに言えばよかろう!」

 財務大臣ベティエルは何人かの貴族を引き連れ、足早にその場を立ち去った。

「さて、夜会の流儀をよく知らないのだが、どう楽しませていただけばよいものかな?」

 何事もなかったように鷹揚おうように言うルインに対して、場の雰囲気は凍り付いている。

御屋形様おやかたさま、場をやわらげましょうか? 楽器もあるようですし、瞬く間に遊興と歓迎の雰囲気に変えられますよ?」

 フリネが進み出て来たが、そこに別の声が響いた。

「楽隊、何をしている? 賓客ひんきゃくの歓迎の音曲おんぎょくを奏でないか!」

 若い男の威厳ある声が響く。ルインはその声に強大な武力を感じ取ったが、顔には出さずにそっと見やった。赤と黒のコートを着た、灰の髪に同じ色の眼の若い男がバルコニーから降りてくる。それに合わせるように、楽隊は思い出したように優雅な夜会の曲を奏で始め、人々の緊張はすぐに弛緩しかんしはじめた。ルインたちも用意された宴席に向かい始める。

「ハイデ、あなたがなぜここに?」

 ベネリスはこの男を知っているようで、驚きと共にその名を呼んだ。

「アーシェラ、君がそれを聞くか。我が神ハルダーはヘルセスの従属神じゅうぞくしんでもあり、ヘルセスの使徒を目指す君がここにいるなら、同じく使徒を目指す私がここにいるのも何ら不思議ではないだろう?」

 ハイデは笑う。しかしその眼光に隙が無かった。

「驚いたわ。しばらく国を離れて行方をくらませていたと聞いたのに」

「第三位の王家とはいえ、私もまた王族のはしくれだ。自分なりに国を思ってここにいる。そして、今日のこの場の仕切りはそんな私も参加していたという事だ」

「そうでしたのね」

「……」

 ルインはこの隙の無いハイデという王族の男に、漂う武の気配と、ベネリスへの視線に不穏なものを感じ取る。と、チェルシーとラヴナが自然な足取りで近づいてきて、小声でつぶやいた。

「あの人、腕が立つけどあまり信用しては駄目ですね」

「何かしら? 親しみよりは危険な決意の匂いがするわ」

「ああ、わかる。気を抜けないな」

 ルインも小声で返した。

「ベネリスさんはそう思ってないっぽいですね」

「彼女にとってはよく知っている人物のようだが、様子を見ておこう」

「それならあたしも手伝うわ」

 ラヴナは言いながらルインの左腕に自分の腕を組む。

「ちょっと、言いながら何してるんですか!」

「こういうのは早いもの勝ちよ!」

 勝ち誇ったようにラヴナが笑い、ルインはチェルシーの呆れた顔を見て苦笑した。

「なら私は右腕で! とても私らしい立ち位置」

 チェルシーもルインの右腕を取る。

「こんな作法は聞いたことがないが……」

「ルイン様は歩きたいように歩いて。あたしたちはルイン様の動きを感知して、何の異和も感じさせずにルイン様が歩けるように同伴できるわ」

 ルインは席についてバルドスタの料理を食べようと考えていたが、盛装のラヴナとチェルシーに両腕を取られてしまったため、会場を適当に歩いて挨拶回りをすることにした。人間の男などまず相手にしないとされている美しい魔族の姫二人が楽し気にその腕を取り合っている姿を見て、退廃たいはいしつつあるバルドスタの貴族たちは、恐れよりも劣等感に近い感情が刺激されている。しかし、そうでない感情を持つ者も何人かおり、そのような者がちらほらと目立ち始めていた。

 対してルインは、両腕をラヴナとチェルシーが掴んでいるのに、まるで一人で歩くように何の気遣いもなく移動できる事に感心していた。二人が本当にルインの意思や動作を事前に感知して合わせているような不思議な感覚だった。そんな三人の前に、バルドスタの貴族の女が歩み寄る。

「ねえ、どう考えても納得がいかないのだけれど?」

 二人のピンクとベージュのドレスの女がルインたちの前に立ちふさがる。

「チェルシー姫、私たちはなぜあなたの審査しんさに落とされたの?」

「そうね、納得がいかないわ」

 さらに、背の高いこんのドレスの女も加わった。おそらく夜会の礼儀も何もない状態に等しく、ルインは再び苦笑する。しかし、ラヴナの眼には好戦的に楽し気な笑みが浮かんだ。

「あらあら納得がいかなかったのね! チェルシー、ここは斧でも叩き込むように本当の事を教えてあげたら? ふふふ」

 ラヴナは普段とは違うしぐさで上品に口元を隠して笑った。しかしそれはどこかに幼子でも相手にするような寛容なあざけりが漂っている。三人の女たちは明らかに不機嫌になったが、夜会の席だという事もあり、何とか表情を作っていた。

「まず最初にはっきり言いますけど、私たちには本心が底の抜けたたるみたいに漏れて伝わってきているので、いっそのこと本音で話した方がいいと思いますよ? 例えば……まず、ピンクのドレスのあなたと、ベージュのドレスのあなた、一応友達同士なのに、『相手の事を利用していつか絶対に差をつけてやる!』って互いに思ってますよね? そんな感じで、眠り人の事なんかどうでも良かったでしょ? 評価が欲しかったんだと思いますけど、そういうのどうなの? というお話なんですよね」

「うっ!」

「ええっ⁉」

 チェルシーは追い打ちのように続ける。

「ちなみに、ピンクのあなたが女学校の試験の時にお腹を痛くしたのはその子が出した紅茶に下剤が入っていたからだし、ベージュのあなたの下着が武技試験の時になくなっていたのは、犯人にされた無口な男の子のせいじゃないです。その子が犯人。二人とも、友達のふりした足の引っ張り合いは気持ち悪いのでやめましょうね?」

 チェルシーはにっこり微笑んだ。

「あれ、あなたが⁉」

「あなただったのね!」

 ピンクとベージュの二人の女は互いに顔を見合わせ、言い合いからつかみ合いに発展した。二人とも、罵声と共に長年の足の引っ張り合いがどんどん露呈していく。

「ほどほどにした方が良いとは思うが、まあ長年の友にはぶつかり合う事も必要か……」

 すでに言葉を掛けて意味のある状態ではないと判断したルインは当たり障りのない感想を呟き、周囲の貴族が何人か笑いをこらえている。

「ルイン様それ全然止める気ないでしょ?」

 ラヴナはおかしそうに肩を震わせた。

「それなら……私は?」

 美しい銀髪で背の高い紺のドレス姿の女が、覚悟を決めたように聞いてくる。

「ああ、あなたはまあまあだったんですけれど、申し訳ないんですが、『見た目が良くて一番頭のいい学校を出て、力のある誰かと結婚すればいい』って考え方は否定しませんが、ちょっと愛が足りないんですよ。例えばあなたみたいな人って、都合が悪くなったら旦那さんほったらかして逃げるでしょ? そんな人に『眠り女』は無理ですね!」

「戦う力と覚悟がない上に、愛も無いって事ね。見た目はそこそこでも中身はヒキガエルじゃない」

 ラヴナがつまらなさそうにまとめる。

「ヒキガエル⁉ バルドスタの名家コロンナ一族の私がヒキガエル……」

 誰にも口に出した事のない考えをチェルシーが口にし、さらに音に聞こえたラヴナ姫の駄目出しを受けて、紺のドレスの女は絶句した。

「本当に、そんな女が多くなってしまいましたわ、我がバルドスタは」

 ベネリスが話に加わり、紺のドレスの女に話しかけた。

「ねえ、コロンナ家のあなた、今は元老院派かしら? それともベティエル派? どちらでもいいけれど、あなたたちは『女を戦わせるなんて前時代的だ!』と蛇蝎だかつの如く私たち王族を嫌っていたでしょう? いい機会だわ、今の私はただの眠り女。罪に問うたりしませんから、『女の握手』をしてみませんこと?」

「アーシェラ王女様、私はこれでもバルドスタの名家の娘です。それなりに苛烈な武技の指導くらいは受けていますよ?」

「いいから、やってみましょう?」

「失礼、女の握手とは?」

 ルインの疑問に、ベネリスは柔らかに向き直った。

「武技や膂力りょりょくも求められるバルドスタの女の古風な習わしです。互いの手首を掴み合って力比べをする座興ですが、他国では少し野蛮とされている風習ですね。ご覧になっていてくださいませ」

「では、遠慮なく」

  紺のドレスの女はベネリスよりも体格が良く、礼儀正しさの中にも勝ちを疑わない自信がうっすらと漂っている。しかし、互いの右手首を掴み合ってすぐ、その表情は驚きに変わった。

「アーシェラ王女様、びくともしない! なんて力なの」

ひねり返しますよ? 優雅な所作を忘れずに」

 ベネリスが言い終えると同時に、紺のドレスの女は握り合った手をダンスのように一回転しつつ頭上にかわしてその手を放した。

「なんて力なの! 女の力じゃないわ……」

 ベネリスはその女の手首を再び掴んだ。

「非力にして細い手ね。こんな手では剣もろくに扱えないでしょう。……かつて、このバルドスタが異世界の蛮族の侵入を受けた時、この国の女たちが、イェルナ女王を含めてどんな目に遭ったか、あなたはご存知ないでしょう? 私は見てきたのですよ? 『イェルナの試練』によって。よろしければ『投影とうえい』でお見せしましょうか? 一年は吐き気と不眠に悩まされますわよ? そもそも……なぜ、今日の平和が明日も続くと思えるのかしら? 理解に苦しみますわ」

「もうそんな時代ではないはずですよ」

「遠い昔のイェルナ女王もそう思っていたのですよ。東の『雨の海』が陸地に変わり、ウラヴ王率いる野蛮なウリス人の大軍が攻めてくるまでは」

「そんな遠い昔の伝説なんて!」

「伝説的な『眠り人』の眠り女に志願したあなたがそれを言うの?」

「もう結構です!」

 銀髪に紺のドレスの女は苛立たし気に立ち去った。

「まあ確かに、あれほど凄惨な試練が必要なのか? と問われれば、そこには私も疑問を感じていますわ。私の眼もあれで暗くなってしまった……」

 ベネリスが孤独に満ちたため息をつく。 

「あれはひどいですよね。『夢繋ぎ』をした今は少し楽でしょうけれど」

 チェルシーが同意する。

「私の夢から見たのですか?」

「ええ。『夢繋ぎ』の時にですね。あれでは『試練』で心に異常をきたす子が出るのも無理はないです。そこは少し考えるべきかなとは私も思いますよ?」

「まあ、今はルイン様のお陰で、以前ほど怯えて眠れない夜がなくなったのには感謝していますわ。ただ……そのような殿方はわが国には見当たらなさそうなのが問題ですけれども」

 暗い目をしたベネリスは気丈に笑ってみせた。

「おれが何か役に立っているなら良かった。ところでさっきの、あのハイデという男はなかなかではないのか?」

 ルインは興味深げに聞いた。

「ああ、ハイデですね。第三王家のハイデは本来、私の従士じゅうしであり親族ですからそのような関係にはなりようもないのですよ? そもそも心に決めた人がいたのです。『試練』で心を酷く病んでしまいましたが」

「そうだったのか。腕は相当に立つようだな」

「東方、フソウ国からバルドスタに入ってきた『刀』を扱わせたら、おそらくバルドスタで五本の指に入るでしょう。実際に刀の名手、『バルドスタの五剣』の一人なのです。サムライの称号もありますわね」

「サムライ?」

「フソウ国の武人です。騎士のようなものですが、刀を使います。達人は鋼鉄の兜さえ真っ二つに斬るのですよ。バルドスタでは騎士の他にサムライも取り入れているのです」

「興味深いな。刀か……」

 ルインはこの時、あのハイデという男と自分がいずれ戦う事になるような気がしていた。

「どうしました?」

「いや、王族を取り巻く環境は厳しいようだ。色々と気を付けてくれよ?」

「ハイデの事を仰っているのですね? 一応ですが、彼は私と考えを同じくしています。彼は血のつながらない姉と愛し合っていましたが、その姉は『イェルナの試練』によって心に異常をきたし、幽閉されているのです。それで、具体的には申せないのですが、ある目的は私と一致していますから」

 チェルシーとラヴナは無言だった。ルインの判断にゆだねようとしているらしい。

「わかった。おれはおれなりに気を付けておこう」

 何かを感じたベネリスも応える。

「私も、よく気を配っておきますわ。あら? あれは?」

 ベネリスの視線の向こうでは、アゼリアがバルドスタの貴族の男と揉めていた。

「全く面白い趣向の夜会だな。行ってみようか」

 近づくと、臙脂(えんじ)のベストに白い礼服の貴族の男が、アゼリアにしつこく絡んでいた。

「あっ、おに……ルイン様、こちらのおと……殿方が私にしつこく絡むのです」

「僕は縁談の答えが来ないままだったから、正式に交際を申し込んでいるだけだ! まさか工人アーキタの女性がこんなに魅力的だったなんて、僕が愚かだった!」

「いまさらそんな強引に言われても!」

 ここでルインは、バルドスタからアゼリアに来ていたという政治的な見合いの話を思い出した。

「……なるほど、以前聞いた縁談の相手か。しかしアゼリア、話くらいは聞いてやっても良いのではないか?」

「話は聞いたの。それでもしつこいから困っているのよ!」

「まあ、とりあえずそこの貴族どの、彼女はそんな気が無いようだし、先日もピステはこの国に蹂躙されかけたんだ。ここは退くのが男ってもんだろう?」

「バルドスタの男は退かぬし、媚びぬし、省みぬのだ! アゼリア殿、正式にお付き合いを!」

「嫌です」

「くっ、その容赦のない返事がバルドスタの女っぽくてたまらない!」

「それならバルドスタの女の人にすればいいでしょ? 大体、私のどこがいいわけよ? 銃振り回して探索したり遺跡の発掘だとか、工作だとかにしか興味ないよ? 先日もつまらない女って言われたしね」

「どこって……」

 貴族の男の視線は一瞬アゼリアの上半身に向かった後に迷い、答えに詰まってしまった。

「胸でしょ?」

 ラヴナがあっさりと言う。

「胸ですよねぇ?」

 チェルシーも続けた。

「ちょっと! ……もう、だからこの服着るの嫌だったのに」

 しかし、貴族の男は意外な答えを返してきた。

「い、いや、それはもちろんですが、立ち姿が美しいのと、話していてバルドスタの女のような面倒さがないんだ。最近のバルドスタの女は、僕のような格の低い貴族の男になど見向きもしないのだ。何というかアゼリア殿は、自分の好きな事がしっかりあるご様子」

「へぇ……」

 意外と深い返事が返ってきて、アゼリアの対応が変わった。

「あら、あなたはクローヴン子爵の五男ではありませんか?」

 ベネリスが思い出したように声をかける。

「こ、これはアーシェラ王女!」

「クローヴン子爵は元老院派でも、ベティエル派でもないでしょう? 王族派のあなたがなぜここに?」

「もしかしたら見合いの相手が来るかと思いまして、一目見てみたく。何しろ、僕のような下級貴族の五男など、今のバルドスタでは相手にされませんからね」

「そうでしたか。元老院派は要らない役所をたくさん作って、そこに自分たちの派閥の者を集めていますし、その為に座学ばかり面倒にしていますものね。ベティエル派は財貨ばかりですし。かつてのバルドスタは三男以下の勇猛な戦士が沢山いたというのに、嘆かわしい事です。もうじき全てを改めますけれどね」

「ありがたいお言葉です。……まあ、このような理由があってですね、アゼリア殿とお話をしてみたかったのですよ」

「なるほどね。でも残念だけど、これ以上私に嫌われたくなかったら、今日はここまでにした方がいいわ。私はルイン様に大切な街を救ってもらって、これから恩を返していこうとしているの。返しきれない恩だから、今は他の誰かとそうなるなんて考えもしないのよ。まして、あなたはバルドスタの人なのだから」

「そうですか。では僕も貴族のはしくれ。今日は退きましょう」

 貴族の男は一礼をして立ち去った。

「あっ、あそこ、セノットやってる!」

 チェルシーが何かに気付いて声を上げた。

「セノット?」

「魔法のカードでの遊戯ですよ。とても戦術性や戦略性が高くて頭を使うんです! 一応私はセノットの名手なんですけれどね。どーれ、軽く揉んでやろっと!」

 チェルシーは広間の隅のテーブルについた、黒いとんがり帽子と黒い羽毛で飾られたドレスの貴婦人の席に向かった。貴婦人は顔を蝶のマスクと黒いレースで隠している。

「あらルイン、やっと右腕が空いたのね? なら今度は私が借りるわ」

 笑顔で歩み寄るクロウディア。しかしルインはここで、何らかの張り詰めた気配を感じた。

「ラヴナ、クロウディア、何かおかしいぞ? 戦いの気配が空気に混じり始めている」

「うん、これ、気が抜けない感じ。何かまずいわ」

「何ですって?」

 この時、王城ダスラの大城壁の外側には、ベティエル派と元老院派の軍勢が、『眠り人』に対する大変な非礼になる事も無視して、王女アーシェラを捕えるべく続々と集結し始めていた。工人アーキタの都市に続き、今度はバルドスタ戦教国において、再びウロンダリアを揺るがす大事件が起きようとしていた。

──自分の種族や能力によって性能が変わる親カードを元に展開する、セノットというカードゲームは、ウロンダリアで大人気の魔法の遊戯でもある。ルールによる駆け引きで勝つことはもちろんだが、親カードは所有者の分身でもあり、自分を冷静に観察するきっかけにもなるのだ

──アルデマール・サギレ著『セノットの流儀』より。

first draft:2020.05.18

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